「AIアシスタントも気になるし、会議の議事録を自動化するアプリも便利らしい。Googleのツールは今も使っているし、電話業務向けのアプリや、顧客管理アプリもいろいろあるらしい……」
情報システム担当や経営者の方とお話ししていると、こうした声をよく聞きます。SaaSは一つひとつを見ると確かに便利です。しかし、いくつも同時に検討していると「結局どれを入れれば投資に対して一番リターンが出るのか」が分からなくなってしまいます。予算には限りがありますし、社内に定着しなければ「入れたけど誰も使っていない」という一番もったいない状態になってしまいます。
この記事では、Claude、ChatGPT、Zoho、Google Workspace、Dialpad、tl;dvという代表的な6つのSaaSを取り上げ、「データ格納」「事務処理」「自動処理」「コラボレーション」「コミュニケーション」という5つの機能軸で整理しながら、中小企業がROI(投資対効果)の高いSaaS構成を考えるための視点をご紹介します。
そもそも「SaaSのROI」はどう考えればいいのか
SaaS選定の話になると、つい月額料金の比較から入ってしまいがちです。ですが、ROIを正しく見積もるには、料金だけでなく「導入・運用にかかる手間」と「削減できる時間・ミスのコスト」の両方を見る必要があります。
たとえば、安いツールを導入しても、既存の業務フローに合わず誰も使わなければ投資はゼロ回収です。逆に、多機能で高価なツールでも、複数の部署が重複した機能に別々のツールでお金を払っている状態(いわゆる「SaaSの重複投資」)になっていれば、それもROIを下げます。
そこで有効なのが、「このSaaSは会社のどの機能を担っているか」を軸で整理する考え方です。今回は次の5つの軸で見ていきます。
データ格納:顧客情報・ファイル・議事録などの情報をどこに置くか
事務処理:見積書・請求書・契約書といった、いわゆるバックオフィス業務
自動処理:定型作業や要約・分類などを人の手を介さずに進める仕組み
コラボレーション:資料やタスクを複数人で同時に編集・進行する仕組み
コミュニケーション:メール・チャット・電話・Web会議など、人と人がやり取りする手段
同じ軸を複数のツールで重ねて持ってしまうと、そこがコストの無駄になりやすいポイントです。逆に、軸ごとに役割分担がきれいにできていると、ツールの数が増えても「重複していない」ため、ROIは高く保たれます。
実際にご相談を受ける中でよくあるのは、「担当者が個人的に気に入ったツールを部署ごとに契約してしまい、気づいたら似たような機能のSaaSが3つも4つも並んでいた」というケースです。一つひとつの契約は小さくても、積み重なると年間のSaaSコストは意外な金額になります。しかも、データが分散しているせいで「どの情報が最新か分からない」という新たな手間まで発生します。ROIを考えるときは、単体のツールの価格の安さよりも、こうした「見えにくいコスト」を減らせているかどうかを重視した方が、結果的に投資対効果は高くなります。
6つのSaaSを5軸で見るとどうなるか
それぞれのSaaSが、5つの軸のうちどこを主戦場としているかを整理すると、次のようになります。厳密な機能一覧ではなく、「中小企業が実務でよく使う範囲」での目安としてご覧ください。
SaaS | データ格納 | 事務処理 | 自動処理 | コラボレーション | コミュニケーション |
|---|---|---|---|---|---|
Claude | △ | ◎ | ◎ | ○ | – |
ChatGPT | △ | ◎ | ◎ | ○ | – |
Zoho(One) | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ |
Google Workspace | ◎ | △ | △ | ◎ | ◎ |
Dialpad | – | – | ○ | – | ◎ |
tl;dv | △ | – | ◎ | ○ | △ |
ここで大事なのは、ClaudeやChatGPTは「データの格納庫」ではなく「情報を活用する層」だという点です。文章作成・要約・企画立案・データ分析といった事務処理や自動処理を強力に助けてくれますが、それ単体で顧客データベースやファイルサーバーの代わりにはなりません。Google WorkspaceのDriveやZohoのWorkDrive、あるいはZoho CRMのような「データの置き場所」と組み合わせて初めて力を発揮します。
Zoho Oneは、CRM・SFA・Books(会計)・Desk(サポート)・WorkDrive・Cliqなど一つの契約で幅広い業務をカバーできるため、5軸すべてに一定の対応力を持つのが特徴です。特に「情報を一元管理したい」「部署ごとに違うツールを使っていて連携できない」という課題を持つ会社では強みが出やすい領域です。
Google Workspaceは、すでに多くの中小企業で日常的に使われている基盤ツールです。データ格納・コラボレーション・コミュニケーションには強い一方、事務処理(見積・請求・契約管理など)や自動処理は単体では手薄なため、そこをZohoやClaude/ChatGPTで補う構成が現実的です。
Dialpadは電話・SMS・Web会議を軸にしたコミュニケーション特化型で、通話の自動要約やセンチメント分析といったAI機能により、コールセンターや営業電話が多い会社では「自動処理」の軸でも効果を発揮します。
tl;dvはオンライン会議の録画・自動議事録・要約に特化したツールです。単体では事務処理や本格的なデータ格納の代わりにはなりませんが、「会議の後にメモを取る・共有する」という地味に時間を取られる作業を大きく圧縮できるため、会議の多い会社では投資対効果が出やすい部類です。
会社のタイプ別に見る、ROIが高くなりやすい組み合わせパターン
抽象的な話だけでは選びにくいと思いますので、よくある中小企業の状況ごとに、ROIが出やすい組み合わせの型を4つご紹介します。
パターン1:バックオフィスの情報がバラバラで一元化したい会社
CRM・見積・請求・サポート対応がそれぞれ別のツールやExcelで管理されている場合、Zoho Oneを中心に据え、必要に応じてGoogle Workspaceのメール・カレンダーと連携させる構成がROIを出しやすい型です。データがひとつのプラットフォームに集まることで、部署間の情報の受け渡しコストと、ツールごとの契約管理コストの両方が下がります。
パターン2:Google Workspaceがすでに社内に定着している会社
土台としてGoogle Workspaceを維持しつつ、資料作成や提案書のドラフト、社内文書のたたき台作成にClaudeやChatGPTを組み合わせる構成です。会議が多い会社であれば、そこにtl;dvを加えることで、会議録の作成という「地味だが時間を取られる作業」を自動化できます。既存の基盤を活かせるため、追加コストを抑えつつROIを積み上げやすいパターンです。
パターン3:営業電話やコールセンター業務の比重が大きい会社
Dialpadを電話・Web会議の基盤としつつ、通話履歴や顧客情報をZoho CRMなどと連携させる構成です。ここにClaudeやChatGPTを組み合わせれば、通話内容の要約からトークスクリプトの改善案作成まで、営業活動の「振り返りと改善」のサイクルを早めることができます。電話対応の件数が多い会社ほど、この組み合わせの時間削減効果は大きくなります。
パターン4:打ち合わせが多く、議事録作成やタスク化に手間がかかる会社
tl;dvで会議を自動的に文字化・要約し、ClaudeやChatGPTでそれをさらに整理してタスクリストや報告書の形に落とし込む構成です。会議のたびに担当者が議事録をまとめる時間を大幅に減らせるため、会議の頻度が高い組織ほどROIが見えやすい型です。
いずれのパターンにも共通しているのは、「軸が重複するツールを増やさない」という点です。データ格納の軸を複数のツールで持ってしまうと、どこが正なのか分からなくなり、結局手作業での突合が発生します。まずは自社にとってどの軸が一番課題になっているかを特定し、そこを解決するツールから優先的に導入するのが、ROIを高める近道です。
オールインワン型か、専用ツールの組み合わせ型か
ここまで見てきたように、SaaSの組み方には大きく2つの方向性があります。一つはZoho Oneのように一つの契約で複数の軸をまとめてカバーする「オールインワン型」、もう一つはGoogle Workspaceのような基盤に、Claude・ChatGPT・Dialpad・tl;dvといった専用ツールを軸ごとに足していく「組み合わせ型」です。
オールインワン型は、契約や管理がシンプルになり、データが一つのプラットフォームに集まりやすいというメリットがあります。一方で、専用ツールに比べると個々の機能の細かさでは劣る場面もあります。組み合わせ型は、各軸で最適なツールを選べる自由度が高い反面、契約数が増え、ツール間の連携設定やアカウント管理の手間が発生しやすくなります。
どちらが正解ということはなく、「今の会社にとって、管理のシンプルさと機能の自由度、どちらの優先度が高いか」で選ぶのが実務的です。従業員数が少なく情報システム担当が専任でいない会社ほど、オールインワン型で管理コストを下げるメリットが大きくなる傾向があります。
料金の考え方について
SaaSの料金は、為替レート、プラン改定、契約人数(ユーザー数)によって変動しやすく、この記事の執筆時点の数字をそのまま載せても、読んでいただく時点では変わっている可能性があります。そのため具体的な金額を確定値として示すことは避け、考え方だけお伝えします。
一般的な傾向として、Claude・ChatGPTのような個人・チーム向けAIアシスタントは「1人あたり月額」で契約するプランが中心で、無料または低価格の個人向けプランと、共同利用を前提としたチーム向けプラン、要件に応じたエンタープライズプランという3段階の構成になっていることが多いです。Zoho Oneのようなオールインワン型は、対象を全従業員にするか一部の利用者に絞るかでプランが分かれ、月額単価も変わってきます。Google WorkspaceやDialpadも、機能の広さに応じて複数のプランが用意されているのが一般的です。
契約前には、必ず各サービスの公式サイトで最新のプラン内容と価格を確認し、想定する利用人数で試算してから判断することをおすすめします。
ROIを試算する際は、「月額料金 対 削減できる作業時間」という単純な引き算で考えると分かりやすくなります。たとえば、議事録作成に一人当たり週2時間かかっている会社であれば、その時間の時給換算コストと、tl;dvやAIアシスタントの月額料金を比べるだけでも、導入すべきかどうかの目安になります。厳密な投資対効果の計算は難しくても、こうしたおおまかな比較を先に行っておくと、導入後に「思ったより効果が出ない」と感じるリスクを減らせます。
カイトが200社以上の支援から見えてきたこと
まとめ:まずは自社の課題を5軸で整理してみる
SaaSのROIを高める鍵は、価格の安さだけで選ぶのではなく、「データ格納・事務処理・自動処理・コラボレーション・コミュニケーション」という5つの軸で、今の会社にどんな重複や抜け漏れがあるかを整理することにあります。
ぜひ一度、自社が使っている(あるいは検討している)SaaSを、この5軸のどこに当てはまるか書き出してみてください。重複している軸があれば統合を検討し、抜けている軸があればそこを補うツールを優先的に検討する。これだけで、次にSaaSを選ぶときの判断がぐっとシンプルになるはずです。
もし整理が難しいと感じたら、カイト合同会社にご相談いただくことも可能です。まずは現状の業務フローを一緒に棚卸しするところから、お手伝いできればと思います。
